ヘルシンキのモディリアーニ展

北欧フィンランドの首都ヘルシンキにあるアテネウム美術館で現在「モディリアーニ:内なる視線」という展覧会が開催されています(201725日まで)。名古屋市美術館が所蔵する《立てる裸婦(カリアティードのための習作)》が出品されていますので、ご紹介しましょう。

 

12月のフィンランドの寒さは格別です。昼間でも氷点下の厳しさですが、それを利用して駅前広場にはスケート場が設けられていました。

写真1

 

その広場と道路を挟んで向かい側にあるのがアテネウム美術館。ヘルシンキ中央駅のすぐそばという便利な立地です。

写真2

巨大な看板の裸婦は、大阪市立近代美術館準備室の所蔵品。ヘルシンキの空港にも同じ看板がありました。

 

担当学芸員のアナ=マリア・フォン・ボンスドルフさんの案内で会場をじっくりと見学しました。会場の導入部にはモディリアーニと関係した人々の写真が半透明な布に印刷され、森のようになっています。

写真3

その下には解説パネルが置かれ、写真の人物とモディリアーニとの関係がわかるようになっています。 

 

当館の《立てる裸婦》は会場の前半、彫刻との関係を示す部屋に展示されていました。

写真4

右の壁の《カリアティード》は愛知県美術館の作品です。その間の巨大な作品は、本物ではなくレプリカ。同じ部屋には石彫が3点飾られ、

写真5

 

さらにギリシャやエジプトなど、モディリアーニが影響を受けた彫刻(ルーヴル美術館から借用した本物)も展示され、

写真6

創作のルーツがよく分かるよう工夫がされています。

 

途中の展示室には、モディリアーニが生きた20世紀初頭のパリを彷彿とさせるポスターの展示や、

写真7

 

その頃のパリの街角の映像なども上映され、作品だけでなく、様々な視点からモディリアーニを紹介しています。さらに作品の簡単な模写を行うワーク・ショップの部屋まで用意されており、大人も子供も楽しそうに制作に励んでいました。

写真8

 

決して大規模な展覧会ではありませんが、隅々まで配慮の行き届いた内容の濃い充実した展示と感じました。そして担当学芸員のこだわりを強く感じさせたのが展示室の最後です。通常の展覧会ですと会場の途中に展示される年譜が、ここでは一番最後に配置されていました。

写真9

 

そして、モディリアーニ伝説を不滅のものとした、妻ジャンヌとの関係は、さらにその後、出口のすぐ近くのパネルで説明されていました。

写真10

 

幾度か映画化されたモディリアーニとジャンヌの劇的な生涯に影響されることなく、作品の造形的な素晴らしさを純粋に鑑賞してほしい。ボンスドルフさんの強い思いがそこには込められていました。

ところで、解説パネルの写真を見ていただくと、いずれも3枚あることにお気づきでしょうか。これはフィンランド語、スウェーデン語、英語の3か国語表記を義務付けられているからで、常設展示も同様でした。街角や駅、レストランなどで現地の方と言葉を交わしても、皆驚くほど英語が達者。フィンランドってこういう国なんだと、認識を改めました。

F

名古屋市美術館のディティール③

2016-05-08 14.40.53

美術館の西側、敷地内にある小路です。

手前の方に、「本当の珈琲をご存知ですか?」という看板があるのが見えますが、これは、美術館のコーヒーショップ Sugiura Coffee http://sugiuracoffee.crayonsite.net/ の看板です。この看板の隣の入口からコーヒーショップに入ることができます。 

その向こう側に目を移すと、なにやら変わった形の物体が見えますね。これは、美術館の階段の踊り場にある窓が外に張り出したものです。正面から見ると、ダイヤ形をしており、日本の城郭建築にある「狭間(さま)」にもみられるように、建物の内側ほど広く作られています。 

そのずっと奥には、名古屋市美術館のディティールでご紹介した、「テトラユニット」があります。 晴れた日にご来館されましたら、美術館の周囲を散策したり、コーヒーショップなどに立ち寄ってみるのはいかがでしょうか。

 

投稿者:AN

「アルバレス・ブラボ写真展-メキシコ、静かなる光と時」開会式

11月2日、「アルバレス・ブラボ写真展-メキシコ、静かなる光と時」の開会式が行われ、約200人の方にご参加いただきました。

ブログ展開会式写真1

 

ブログ展開会式写真2

 

20世紀写真史に大きな足跡を残したメキシコの巨匠、マヌエル・アルバレス・ブラボ(1902-2002)。メキシコ革命を経て、壁画運動や前衛芸術が渦巻く激動の1920年代末に頭角を現し、最晩年の1990年代末に至るまで、一貫して独自の静けさと詩情をたたえた写真を撮り続けました。 本展は作家遺族が運営するアーカイヴより全面的な協力を得て、192点のモノクロプリントと多数の資料を全4部・9章構成で展覧し、約70年におよぶアルバレス・ブラボの仕事の魅力を紹介する、国内初の本格的な大回顧展です。

 

ブログ展開会式写真3

 

見るものの眼を刺激するような衝撃的な光景ではなく、ただ静かに見つめているうちに、対象に注がれた温かく優しい写真家の視線を感じることができるような抒情的な光景が眼前に拡がってきます。 ゆったりと落ち着いた心地よいアルバレス・ブラボの写真に癒される秋のひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。 「アルバレス・ブラボ写真展-メキシコ、静かなる光と時」は12月18日まで開催しております。みなさまお誘い合わせの上、ぜひお越しください!

アントニー・ゴームリーの作品《密着》と《接近》について考える

2016HP原稿2写真

名古屋の夏の猛烈な暑さに嫌気が差して、涼しい芝生の上に引っ越しました。

  

 

先日、美術館協力会のツアーで訪れた箱根・彫刻の森美術館にも、アントニー・ゴームリーの作品《密着》(1993年)が展示されていました。

名古屋市美術館の作品は《接近》(1999年)ですから、別の作品のように思われるかもしれませんが、実は原題は同じ《Close》の連作です。日本語に翻訳するときに違っていただけのことですが、どちらも地球に「接近」あるいは「密着」しようとしているということを意味しています。

紙の上に大きな円を描いて、その円弧の頂点に、小さな人体像を描き加えてみてください。ご存知のように、この作品は作家本人から型を取った彫刻作品ですので、「ゴームリーが地球を抱きしめている」イメージと言っていいかもしれません。

よく見ると、《密着》の方が彫刻の表面はつるつるに磨かれているようです。傘を差している人たちがいることからもわかるように、この日は雨が降っていましたので、より表面が濡れて輝いていました。

《接近》は、ゴームリーの着ていた衣服の襞や鋳造のための流し口が残っているくらいに、表面をまったく磨いていませんので、とても具体的でリアルな感じがするのに対して、《密着》は、かなり抽象化された人体模型のように見えます。このような意味で、「地球を抱きしめている」のは、ゴームリーという特定の人間ではなく、より普遍的な人間、言い換えれば、すべての人間ということになります。

このように《密着》と《接近》は同じ原題の連作ですが、人間像の表現という観点では対極にある作品と言えます。

sy

名古屋市美術館のディティール②

2016-05-08 14.42.58

さて、これはどこでしょうか?

緑色の手すりが綺麗な曲線を描いています。

名古屋市美術館の設計者黒川紀章は、このように曲線を巧みに使い、また、色にもこだわりました。

この緑は日本の伝統色「常盤緑(ときわみどり)」。建物を遠くから見た時にもひときわ目を引く鮮やかな緑です。

建物の中に入れば、やはり日本の伝統色である「朱(しゅ)」も目に入ります。

ご来館される時には、どうぞ、色にも注目してみてください。

 

投稿者:AN

閾値を超える

しばらく前から美術館の教育普及活動について考えることが増えています。名古屋市美術館が開館した1980年代末から90年代にかけては、ブームとも言えるような興味や関心を集め、各地各所で様々な試みが行われていました。教育普及を専門とする学芸員の採用も増え、美術館の活動内容が変わって行く兆しのようなものが感じられたものでした。

ワークシートやワークショップ、ギャラリートークや音声ガイドなどはこの頃から一般に広まり、今日ではあって当たり前、手法も標準化が進んだためか中身が問われることもなくなってきています。コンピュータやスマートフォンの普及が進み、教育普及の手段や手法が変わりつつある今は、移行にともなう停滞期なのかもしれません。

あいちトリエンナーレで実施されているNET  Project》は、ブラジル出身の作家ジョアン・モデさんの企画によるものです。紐をつなげてネット()を織り上げるというもので、観客である我々が参加者として作品を作り上げて行きます。

「つなぐ」「結ぶ」という概念は、教育普及活動では基礎的なものであり、その発想のもとで考案されたプログラムは数多くあります。東日本大震災では「絆」という言葉が多く語られましたが、それより以前、例えば新潟県中越地震の折などにも市民参加によって紐や布をつなぎあわせ、何ものかを作り上げるプロジェクトが行われています。

モデさんのように作家発案のもの、美術館の教育普及担当者の発案によるもの、とそれぞれあるのですが、単純同一に比較できないとしても、後者が様々な点において分の悪い状態にあるのは間違いないでしょう。表現活動としてのプロジェクトと教育普及活動としてのプロジェクトの類似と境界が、評価とともに問われてきます。 

さて、モデさんの《NET  Project》は、開始から2週間余りでこれほどの密度を持つほどになりました。(817日撮影。開始直後の様子は、730日付けのブログをご覧ください。)

 

1

 

トリエンナーレ終了まで、まだ2ヶ月もの期間があります。これからどんな状態になって行くのでしょうか。まったくの偶然ですが、少し前に始まったポケモンGOは過剰な同調行為がいつもとは違う状態を生じさせることを目に見えるかたちで示しました。悪意のない行為も度が過ぎれば望ましくない状態をもたらす可能性がある。ネットの重みに耐える樹々に「ほどよい加減」を考えさせられました。モデさんの意図が何辺にあるのか、それが明らかになるまで様子を見ることにしましょう。

 

投稿者: み。

みんなで つなげよう つながろう

美術館の敷地の角に、何やら人が集まっている。 今はやりのポケモンGOか?

 ジョアン・モデ 1

いや、ポケモンじゃない。 何だこれは?

ジョアン・モデ 2

 

いろんな色、いろんな太さ、いろんな長さのヒモが、つながって網のようになってます。

通りかかった子どもたちもヒモを結ぶのに夢中。

ジョアン・モデ 3

 

子どもだけじゃありません。大人も夢中。 私もやってみましたがすぐに夢中。

実はこれ、811日から始まる、あいちトリエンナーレの作品の一つ。

左上で地面に座って、ヒモをそろえているのがブラジル出身の作家ジョアン・モデさん。

作品名は《NET  Project

 

ジョアン・モデ 4

ヒモをつなげば、心もつながる。インターネットもいいけれど、本物のネット作りにも

参加してはいかが? この《NET  Project》、今日(730日)からトリエンナーレの会

期中、誰でも参加できます。(F

ジョアン・モデ 5

 

 

 

ポンペイの壁画展

《ケイロンによるアキレウスの教育》

図1:ケイロンによるアキレウスの教育

《踊るマイナス》

図2:踊るマイナス

 

名古屋市博物館で「世界遺産 ポンペイの壁画展」の開会式があり、展示を見てきましたので早速ご紹介しましょう。とにかく素晴らしい展示です。久しぶりに展覧会を見て、陶然としました。出品点数は63点。と聞くと物足りないように感じる方もいるかもしれませんが、見応えは十分です。

壁画はすべてフレスコ画。つまり漆喰の壁に水溶性の絵の具で描いたもので、今から2千年ほど前に制作されたものです。当然、状態がそれほど良いとは思えないのですが、同業者の立場で言うと、よくもこれほどのレベルのものを、こんなに沢山貨したものよ、とあきれるほどの質の高さです。

絵画技法としては素朴、時に未熟という表現も使いたくなりますが、決してそれがマイナスになりません。むしろ描くことの喜びがストレートに見るものに伝わってきます。そして、時代を経たものだけに許される絵の具の独特の質感と色合い。いつまで見ていても飽きることのない深みのある美しさがそこにあります。とりわけ素晴らしいのが、ナポリ近郊の農園別荘の壁画を再現した部屋。三方を美しい壁画に囲まれた部屋の中央に立つと、瞬く間に気分は古代ローマ世界。この部屋を見るだけでも十分に価値があります。

ルノワールの作品なら、パリでもロンドンでも、ニューヨークでも、そして東京でも見ることはできます。しかし、これだけのレベルの壁画をまとめて見ようとすればナポリかポンペイに行くしかありません。考古学ファンのあなたも、美術ファンのあなたも、見逃す手はありません。(F

*「世界遺産 ポンペイの壁画展」は925日まで名古屋市博物館で開催中

今年の夏!

AT2016_LAI_Chih_Sheng

 賴志盛《Border_Lyon》 第13回リヨンビエンナーレ、リヨン現代美術館 2015 Courtesy of LAI Chih-Sheng and ESLITE GALLERY

 

3年ぶりに、また、あいちトリエンナーレが開催される夏が近づいてきました。トリエンナーレも今回でいよいよ3回目を数えます。

あいちトリエンナーレ公式Webサイト http://aichitriennale.jp/

 

今回も、名古屋市美術館は会場の一つになります。つい先日、あいちトリエンナーレの事務局の方々が名古屋市美術館にいらっしゃって、こちらの会場ではどのような作家、作品が展示されるのかということとディスプレイや展示作業についての打ち合わせがありました。第2回目の前回は、空飛ぶ茶室など、大掛かりな工事が必要となる野外作品があったり、出入り口に美術館南側の非常口が使われたり、通常の状態とは大きく違った使い方で、当館をよくご存知のお客様を驚かせたことと思いますが、今回はそれと比べると、オーソドックスな美術館の使い方になりそうです。しかしながら、テーマに合わせて選ばれた、世界各地で活躍しているアーチストの魅力的な作品が名古屋市美術館の空間でどんな風に見えるのか、とても楽しみです。

 

トリエンナーレの期間中は、企画展示室1・2と常設展示室3が、あいちトリエンナーレの会場となりますが、名古屋市美術館の常設展は、通常通りオープンしています。これまでのトリエンナーレでは、この地域にお住まいのお客様に加え、県外あるいは、海外のお客様もずいぶんたくさんお越しいただいているようでした。ここは、普段名古屋になかなかいらっしゃることがないお客様に名古屋市美術館をアピールするチャンスでもあります。せっかくの機会なので、トリエンナーレのお客さんにもぜひ名古屋市美術館の常設展を見て頂きたいと思い、トリエンナーレのテーマに合わせて、目下、名品コレクション展IIを準備しているところです。

 

今回のトリエンナーレのテーマは「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」。キャラヴァンサライというのは、ペルシア語で旅の宿を意味するそうです。それに合わせて、名古屋市美術館の常設展は、「旅」ということをテーマにしました。「エコール・ド・パリ」は、今年度は一年を通してシャガールの版画を紹介しているので、「旅」のテーマではありませんが、ほかの3つはそれぞれ「旅」をテーマに組んでいます。

 

「エグザイル:自由への旅-《流氓ユダヤ》と《北満のエミグラント》」では、昨年俳優の唐沢寿明が主演した映画で話題となったリトアニアの外交官杉原千畝のヴィザで日本にわたってきたユダヤ人を写した作品など、芸術写真でありながら歴史のドキュメントとしても貴重な写真を紹介します。

 

また、「メキシコへの旅」では、メキシコに旅をした写真家たちがメキシコで撮影した写真を紹介します。メキシコの人々や風景を旅行者の視線がどのように捉えたのでしょうか。また、今回、新収蔵品の写真作品もご紹介いたします。

 

「時間の旅」では、日々当たり前に過ぎていく時間について考察するような作品を紹介します。宮島達男作品《Opposite Circle》も3年ぶりに展示します。

 

みなさま、この夏、トリエンナーレとともに、名古屋市美術館の常設展もぜひ、お楽しみください!

  

hina

「いま、被災地から―岩手・宮城・福島の美術と震災復興―」展について

このページでは基本的に当館の展覧会や催事に関わるお知らせをしていますが、今回に限り他館の展覧会をご紹介およびリンクを張ることをお許しいただきたいと思います。

なぜなら、当館へお越しくださった皆さまからの募金で成り立っている展覧会だからです。

 

「いま、被災地から―岩手・宮城・福島の美術と震災復興―」

会期:517日(火)~626日(日)

場所:東京藝術大学大学美術館

http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/tohoku/tohoku_ja.htm

 

 5年前の311日、東日本大震災が発生し、沿岸部の博物館施設は壊滅的な被害を受け、各館の所蔵品が津波の甚大な被害に遭いました。

 

それから1か月も経たぬうちに当館ボランティアから「被災地の美術館、博物館に対してできる支援はないのか」との声が挙がり、全国美術館会議へ提言したのをきっかけに募金活動が展開されたことは、既刊のアートペーパー(98号)で報告した通りです。

 

20143月末をもって募金箱の設置は終了していますが、3年弱の間、募金にご協力いただいた来館者の皆さま、協力会会員およびボランティアの皆さまには改めて厚く御礼申し上げます。

 

本展では被災後に救出、応急処置、修復を経た美術品だけでなく、3つの県立美術館の協力の下、各館の代表的な所蔵作品を通して東北の地で育まれた美術・文化について、また多数の写真パネルや資料を通して文化財レスキューの活動についてもご紹介しています。

 

会期が残り2週間を切った今になってのご案内で大変心苦しいのですが、東京へ行くご予定がございましたら、ぜひ足をお運びください。

 

3