出前アート体験

子どもたちは夏休みですね。

 名古屋市美術館は、名古屋市の教育委員会に所属しています。教育委員会は、所属の美術館、博物館、科学館だけでなく、市立大学など市に関係のある諸団体と連携して、希望に応じて市立の小学校、中学校、特別支援学校でさまざまな分野の専門家が授業を担当する「その道の達人派遣事業」を行っています(名古屋市公式ウェブサイトhttp://www.city.nagoya.jp/kyoiku/page/0000050684.html)。

 美術館、博物館、科学館は、三者で「出前ミュージアム」というプログラムを担当しており、美術館は「出前アート体験」という名称で学芸員が授業を行っています。今年度は4つのテーマで希望を募りましたが、そのなかの1つ「アートカードで学ぼう」の授業を先日、小学校で行ってきました。

アートカードは、美術作品を絵葉書大のカードにしたもので、実物を見ることができなくても美術に親しむことができるようにと開発された教材のひとつです。名古屋市美術館は所蔵作品60点を使用したオリジナルのカードを作成しており、「アートカードで学ぼう」はそのカードを使用して授業を行います。アートカードの使い方は多様にあるため、授業を行うクラスの担任教諭などに希望した理由や狙いなどを確かめ、それに見合うように内容を用意しています。

授業では、毎回、子どもたちから新しい気づきを与えられています。先日の授業でも多くのことを教えられましたが、特に印象深かったことがらを以下に紹介します。

アートカードを用いる授業では、子どもたちに見て気づいたこと、感じたこと、思ったことを自由に話し合ってもらう時間を多く設けるようにしています。美術史の知識や事実に基づいた正しい解釈を教えることよりも、まずは興味や関心を持ってもらい、よく見ることを通して何がどのように表わされているかを自分なりにつかみ、そのことから抱いた自分の思いを美術鑑賞の出発点として大切にして欲しいと考えているからです。そんな活動のなかで、鬼頭鍋三郎の《手をかざす女》について、「津波の後の様子」と語った子どもがいました。

草原にあるコンクリート製の井戸を背にして前掛けを付けた洋装の女性が右手を額に当てて素足で立つ姿を描く《手をかざす女》は、1934年に制作されており、津波の後の光景を描いたものではありません。「働く女性」を主題に作家が文字通り「絵になる光景」を構想して作画した作品です。私はこの作品の制作背景を知っているため、このように思うことはない(なかった)のですが、以前、この作品を見て「戦後の焼け跡から復興しつつある様子」と語られた方があり、「虚心に見ればそのようにも見える。なるほど」と思ったことを記憶しています。

授業をしたのは小学校3年生のクラスです。この年代の子どもたちにとっては、先の戦争よりも東日本大震災の津波による被害が実感を伴う体験なのだと気づかされました。報道などに触れるだけでなく、名古屋市にも避難をされている方があり、身近に体験を共有する状況もあることを改めて意識させられました。

子どもたちは《手をかざす女》を覚えていてくれるでしょうか。気づいたことの遣り取りからさまざま連想し、思い思いの理解を得た子どもたちが、美術館で実作と出会い、またその時々の興味や関心から作品への理解と愛着を深めて欲しいと思います。《手をかざす女》に限らず、そうした営みが美術作品に命を与え、後世に残して行く意味をもたらすのだと思います。

《手をかざす女》については、当館ウェブサイトで、名古屋市美術館ニュース アートペーパーの第101(2016年春号)(http://www.art-museum.city.nagoya.jp/dir_Artpaper/Artpaper101.pdfを、アートカードについてはこちらのページ(http://www.art-museum.city.nagoya.jp/publish/artcard)をご覧ください。

「出前アート体験」は、当館ウェブサイトに掲載の「年報」の「教育普及事業」で、授業内容などをご覧いただくことができます。

アートカードを用いる教育プログラムは、美術館内で実施する教育事業に含まれていることもあります。興味や関心のある方はそちらにご参加ください。

投稿者:み。

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