月別アーカイブ: 2014年8月

「ロボット家族お父さん、お母さんのニューヨーク訪問記」②

8月17日に輸送のための解体、モニターを取り外した《ロボット家族(お父さん、お母さん)》の二体は、あらかじめ採寸、制作された輸送用の巨大な木製クレート三箱に収納され、19日に通関検査、そして20日に美術館から搬出されました。
クーリエ(courier)として作品に随行することになった筆者は、翌21日成田発の旅客機で出発、およそ11時間のフライトで無事ニューヨークのJ.F.ケネディ空港に到着しました。作品を貸出、展示するアジア・ソサエティ美術館は、マンハッタンのPark Av.(パーク・アべニュー)の725番にあります。事前にその場所を地図で確認することもなく、「パーク・アベニューのだいぶ北の方だろうけど、マンハッタンの中にあるからいいや。」と思い、訪問したのですが、行ってみてビックリ。
マンハッタンの中心部、東70丁目“目抜き通り”パーク・アベニューに面した絶好のロケーションにあります。

パーク・アベニューに面したメイン・エントランス
図①
図②

美術館の前のパーク・アベニューを南に振り返ると、すぐ間近にグランドセントラル駅の駅舎とかつてのPAN-AM(パンアメリカン航空会社)、現在はアメリカの保険会社のビルが見えます。
図③

アメリカ美術の「殿堂」ホイットニー美術館には歩いて5分、メトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館ニューヨークにも10分程度の距離でした。これまでもニューヨークには訪れたことはあるのですが、悲しい哉、職業柄か単に生来の性格によるものか、ニューヨーク近代美術館(Moma)から北は、メトロポリタンやグッゲンハイムが面した五番街を南北に往復を繰り返していました(因みにその時はいつも高橋真梨子の歌を思い出します)。そのため、アジア・ソサエティ美術館は今回始めての訪問となりました。

さて、到着すると早速アジア・ソサエティ美術館のスタッフが出迎えてくれました。アジア・ソサエティ美術館学芸員で展覧会の企画担当者でもあるMichelle YUNさんと、ホテルの手配等、今回のニューヨーク滞在の手配をしてくれたJennifer Patric Limaさんとは、これまでメールのやり取りだけでしたが、本人に会うと、初対面とは思えずなぜか安心しました。
驚いたのは、Michelle YUNさん。妊娠中で、出産予定日は展覧会開幕10日後だそうです。今回の企画にかける彼女の熱い思いがひしひしと感じられました。

美術館は、9月4日から始まる「ナムジュン・パイク展」のために現在、ミュージアム・ショップを除いて休館中でしたが、それでも館の内外では展覧会に向けて着実にその準備が進められています。

同美術館エントランス・ロビー
図④

パーク・アベニューに掲げれらた展覧会予告看板
図⑤

館内カフェ・ロビーにも展覧会パネルが架け替えられました。
図⑥

展覧会場は美術館2F、3Fのフロアーで開催、二階への階段。
図⑦

到着早々、同館の展示スタッフと一緒と開梱、組み立てにかかりました。

作品本体を設置、これからテレビモニターの搭載と受信に取り掛かります。
図⑧

作品に関しては名古屋で改良・修復した折に、一通りのレクチャーと記録写真は撮っておいたのですが、いざ組み立てる段階になると、お願いしていた変圧器が用意されてなかったり、作品のバック・スペースが狭かったり、さらにはハンダ付けしている部分が取れたり、モニターが収納できなかったり、挙句の果てには、現地のテレビ番組New York1がうまく受信できなかったりと、結構苦労しました。それでも、Yunさんに文句も言うことなく、成田でレンタルしたポケットWi-Fiを試してみると、修復してもらった名古屋の技術者と連絡メールのやりとりができ、解決するための手立てを探りました。
21日(木)午後2時から開梱、組み立て、22日(金)は10:00~18:00まで終日、モニターの搭載とテレビの受信、映像チェックにかかり、三日目の23日(土)の16:00になってようやく、無事インスタレーションが完成しました。

設置を終え、受信のための機器にカバーをかけます。
図⑨

「お父さん」の横には、カナダから出品された「べビー」が展示されました。
図⑩

展示を終えて、作品を眺めるアジア・ソサエティ美術館スタッフ。
図⑪

展示を見守るYunさん。当館所蔵作品の貸出・出品を大変喜ばれ、作品を見るたびに感謝してくれました。
図⑫

New Yorkにて。

投稿者:J.T.

「ロボット家族お父さん、お母さんのニューヨーク訪問記」①

前回、7月5日付けのブログで少し紹介しましたが、当館所蔵のナムジュン・パイク《ロボット家族(お父さん、お母さん)》二体の作品の修復作業を行いました。当館の展示室では、「地デジ」放送が受信できず、またWi-fi空間ではないため、《ロボット家族》「お父さん」の目と「お母さん」の目及び胸の部分に搭載された受像機7台には、テレビ放送がリアルタイムで受信、放映できないこともあり、ここ四年ほど常設展示で展示紹介できないという、“異常”な状態にありました。

そんな折、去年の10月、ニューヨークから同作品に対して出品依頼が寄せられました。元々、作品の躯体の構造が決して頑丈ではない上に、テレビ放送が受信できないこともあり、当初出品は辞退するつもりでしたが、ニューヨークのアジア・ソサエティ美術館学芸員で展覧会の企画担当者でもあるMichelle YUNさんの熱心な出品依頼と熱意にほだされ、そして何よりパイクの回顧展ということもあり、修復を条件に貸し出し出品することになりました。

修復にあたっては、まず二体のロボットに搭載された12台のテレビモニターが受像できるかどうかが、当面の、だが最大の課題でした。およそ四年間も展示していない、つまり通電していないブラウン管テレビや液晶テレビが、果たして“生きている”のか?その不安を抱えながら、さらに今回の貸し出しだけではなく、今後当館の常設展での展示・紹介を考えると、作家であるナムジュン・パイクが制作した当時の状況を再現しながらも、将来に亘ってその機能と効果が持続されるような修復効果が必要とされます。

「お父さん」12台、「お母さん」11台のモニターのうち、パイクが制作編集したCG映像を流すブラウン管テレビ受像機26台に関しましては、“通電”し、何とか映像を映し出すことはできました。一方、リアルタイムでテレビ放送を受信する液晶モニター7台に関しては、美術館屋上に設置された「地デジ」放送のアンテナ端子からケーブルを延ばし、連結してみるとその一部に不具合が確認され、今回の修復では、液晶テレビモニターすべての交換と「地デジ」放送の受信、確認を目指すこととなりました。

「お父さん」の頭部、カバーを外したところ
図①

「お父さん」のボディから外された頭部
図②

「お父さん」の液晶モニターを外したところ。モニターの支えが確認できる。
図③

そして、修復作業の過程において、興味深いことが判明しましたので、その一部を以下にご紹介しましょう。

ナムジュン・パイク《ロボット家族》は、1986年に制作され、すでに紹介しましたとおり、7台の液晶モニターが搭載されています。今回修復のための解体してみると、それらはSONYの携帯型液晶モノクロモニター“WATCHMAN”という代物でした。

「お母さん」の胸の部分のモニター取り付け状況
図④

「お母さん」のボディから外された液晶モニター《ウォッチマン》
図⑤

1980年代に音楽はもとより、若者文化さらにはストリート・カルチャーに決定的な影響を与えた同社の“携帯型ステレオカセットプレーヤー”《ウォークマン》は、今日の「スマホ」文化にも通低する“伝説”として有名ですが、同時期に開発、販売されていた《ウォッチマン》も一部のマニアの間では熱狂的な支持を受けていたようです。よく指摘されることですが、新たな企画を目指した当時のSONYの進取の意欲と企業精神には改めて驚かされます。
また、それとともに新たな電化製品を早速自身の作品に取り込んだパイクの発想と決断に感心しました。だが、《ウォッチマン》も《ウォークマン》同様携帯型で、そのボディは、シルバー・メタリックに統一されており、それをロボットの目として搭載するに当たってブラウン管テレビのモニターに仕組むのには、そのシルエットが出てしまうことが判明したのでしょう。パイクは一台一台を自身で、つや消しの黒でペイントしたり、黒の絶縁テープで張ったりという試行錯誤が手に取るようにわかりました。葛藤とその痕跡を確認できたことによって、作家としてのパイクの人間性が身近に感じられ、以前にも増してこの作品《ロボット家族(お父さん、お母さん)》が好きになりました。

そして14インチの新たな液晶モニターを搭載し、
【新旧の小型液晶モニター】
図⑥
その画像をblack & white、所謂モノクロに変換し、「地デジ」放送の受信を確認し、新規交換の小型液晶モニターをフレームに仮設置、
図⑦
無事本来の姿と機能を取り戻すことができました。

小型液晶モニターを新規ベース装着しフレームに設置
図⑧

そして、輸送時の安全のためにモニターを本体からは外して、梱包、8月20日、ニューヨークに向けて搬出されました。

投稿者:J.T.

夏休みこどもの美術館2014「ざらざらえのぐで、でっかいびょうぶ」

台風11号がじわじわと日本に近づいていた8月8日(金)午前、小学1~3年生対象のワークショップ「ざらざらえのぐで、でっかいびょうぶ」を開催しました。
今回の講師は、美術家の山口百子さんです。

「みんな、屏風ってどんなのか知ってる?」
「知ってるー、おひなさまの後ろに立ってるやつでしょ?」
「そうだね、あれも屏風。でも、金ぴかの無地のものだけじゃないんだよ」

今回はまず参加者全員で展示室へ移動し、屏風がどのくらいの大きさのものなのか、
どんな絵が描かれているのかを見ました。
Wの形に折り立ててある作品もあれば、壁に平らに張り付けてある作品もあります。
でっかいびょうぶ①

講堂へ戻ったら、グループ毎に自分の好きな色の水干(すいひ)絵具をえらんで、方解末(ほうかいまつ)と一緒に絵皿に入れてもらい、
でっかいびょうぶ②

絵具の粒を指ですりつぶした後、膠(にかわ)液を入れて、よく練ります。
でっかいびょうぶ③

グループに用意された縦長の大きな画面に、ざらざら絵具で汚れた指をそのまま、えいっ。
手ざわりを確かめながら描いていきます。
でっかいびょうぶ④

最初は真っ白な紙に何を描いたらよいか悩んでいた参加者も、同じグループのお友達が描いているものに触発されてアイデアが浮かび、絵の世界はどんどん広がっていきます。
でっかいびょうぶ⑤

画面が大きいから、手が届かないところは乗っかって描いちゃえ。
でっかいびょうぶ⑥

あっという間に画面がみんなの描き込みで埋まってきました。
でっかいびょうぶ⑦

次は、硯で墨をすって墨汁を作ります。
ほとんどの参加者が初経験だったようですが、墨をすっている間はそれまでの賑やかさが嘘のように静まり返っていました。
でっかいびょうぶ⑧
でっかいびょうぶ⑨

筆に墨をつけて、先ほどの画面にさらに絵を描いていきます。
なんだか絵に奥行きが出てきました!
でっかいびょうぶ⑩
でっかいびょうぶ⑪

画面が乾いたところで、縦長の画面を2つずつ、つなぎ合わせて立たせ…
でっかいびょうぶ⑫

すべての画面がつながったところで、四曲一隻(よんきょくいっせき)の屏風の完成です!
でっかいびょうぶ⑬

お迎えに来ていた保護者の方と一緒に、出来上がった作品を鑑賞。
完成作の迫力に大人もびっくりです。
今回は作品を持って帰ることができないので、皆スマホやケータイ片手に大撮影会となりました。
でっかいびょうぶ⑭

グループ毎にバラバラに描いていたはずなのに、画面がつながると呼応する部分が見つかったりして、最初から一つの大きな作品だったように見えたのがとても不思議でした。
床に寝かせて描いていたときと画面をつないで立たせたときで、見え方が全然違うことに参加者は一番驚いていたようです。

講師の山口さん、学生アシスタントの皆さん、そして参加者の皆さん、ありがとうございました!

投稿者:3

夏休みこどもの美術館「日本画の良さを知ろう」

少し時間が経ってしまいましたが、さる7月26日(土)、夏休みこどもの美術館2014のワークショップ「日本画の良さを知ろう」(対象:小学4年生~中学3年生)を開催しました。
今年は現在開催中の特別展「挑戦する日本画:1950~70年代の画家たち」とゆるやかに関連させ、日本画ならではの画材や技法、画面の形などに親しむプログラムを複数企画しています。
この日は日本画家として活躍中の濱田樹里さんを講師にお招きし、自分の手で日本画の画材に触ったり、さまざまな技法を体験したりして、日本画ならではの表現やそのよさを知ることをねらいとしました。
「日本画の良さを知ろう」WS①

最初に日本画で用いる岩絵具(いわえのぐ)の原料である鉱物を見たり、手触りやにおいを確かめたりしました。
今回実際に使うのは水干(すいひ)絵具と呼ばれるものですが、絵具としての使い方は一緒です。
あとはひたすら実践あるのみ。

まず刷毛で下地を塗り、
「日本画の良さを知ろう」WS②

乾かしている間に水干絵具に膠(にかわ)液を加えて、
「日本画の良さを知ろう」WS③

指で練り、
「日本画の良さを知ろう」WS④

その絵具をもう一度刷毛でパネルに塗ります。
「日本画の良さを知ろう」WS⑤

図柄を選んだら、
「日本画の良さを知ろう」WS⑥

念紙(手製のカーボン紙)と重ねてパネルに固定し、図柄を転写、
「日本画の良さを知ろう」WS⑦
「日本画の良さを知ろう」WS⑧

さらに写した線を墨でなぞります。
「日本画の良さを知ろう」WS⑨

その後はどんどん色を塗っていきます。
一度塗ったところも色を重ねると、複雑な色合いで深みが出たように感じられます。
参加者の集中力は講師の濱田さんもスタッフも驚くほどで、あっという間にこんな感じ。
「日本画の良さを知ろう」WS⑩
※画面を早く乾かして次の色を塗りたいので、ドライヤーを当てています。

今回使用する木製パネルには、2種類の和紙が重ねて張ってあって、とても丈夫。
このワークショップのために講師が忙しい合間を縫って、事前に準備してくださったものです。
何度も色を塗り重ねても、破れることや毛羽立つことがないので、参加者は安心して描くことができました。
「日本画の良さを知ろう」WS⑪

今回は金箔、銀箔を画面に張ったり、砂子筒(すなごつつ)を使って細かく散らしたりという装飾的な技法にも挑戦しました。
「日本画の良さを知ろう」WS⑫
「日本画の良さを知ろう」WS⑬
※箔を貼りたいところに接着剤代わりの膠水を塗り、砂子筒に箔を入れて上から振りかけます。

ものすごい集中力で作品を完成させた参加者は、初めて体験する技法や画材に最後まで興味津々の様子でした。
この体験を通して、これまでとは異なる視点で、日本画作品を見てもらえるといいなと思います。

講師の濱田さん、アシスタントのお二人、そして参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました!

投稿者:3

この紐は、何処から来て、何処へ行くのか。

2013年12月23日(ハイレッド・センター展の最終日)
名古屋市美術館・南庭にて
この紐は、何処から来て、何処へ行くのか